2013年11月6日水曜日

『危険なプロット』鑑賞。




Fabrice Luchini主演。
Ernst Umhauer出演。
原題;Dans la maison
2012年9月20日 フランス公開。
2013年10月19日 日本公開。

転落は、人生の悲劇とは限らない。






【あらすじ】
作文の添削ばかりで刺激のない毎日に嫌気が差している高校の国語教師ジェルマン(ファブリス・ルキーニ)は、クロード(エルンスト・ウンハウアー)という生徒が書いた同級生とその家族を皮肉った文章に心を奪われる。その秘めた文才と人間観察能力の高さに感嘆したジェルマンは、彼に小説の書き方を指南する。かつて諦めた作家になる夢を託すようにして熱心に指導するジェルマンだが、クロードの人間観察は次第に過激さを増すように。そして、その果てにジェルマンを思わぬ事態に引きずり込んでいく。
(CINEMA TODAYより)


【高校教師と、非凡な才を放つ美貌の男子高生の関係】

凡庸な生徒たちに辟易した国語教師ジェルマンが、非凡にして耽美な憂いを秘めた、文才豊かな美しき男子高生クロードと出会い、小説の手ほどきを施していく。やがて、クロードの純粋な好奇心は、ジェルマンのキャリアのみならず、私生活までをも脅かすのだが、しかし、その悪魔のような筆才に身も心も魅了され、魂を絡め取られたジェルマンは、クロードの才能と、そしてクロード自身に、自ら進んで溺れていく。中毒性を深め、もはや後戻り出来ない境地に自らを追い詰めるジェルマン。ついにジェルマンは、地位も名誉も家庭も失ってしまう。全てを失ったかに見えたジェルマン。だが、ジェルマンの傍らには、そっとクロードが佇み続けるのであった。

***

クロードの才能に耽溺し、身を破滅させたジェルマンと、彼を破滅へと導いたクロード。だがしかし、二人の関係性には、不思議と不快感を覚えない。寧ろ「空白の部分」に然るべき存在がカチリとはまった、そんな安堵感なのだ。指導する立場と指導される立場というパワーバランスは、瞬く間に崩壊、逆転するわけだが、ジェルマンは寧ろ、平凡な人生を非凡な才能に侵食されることに、心地よい快感を覚えているし、クロードは好奇心の対象であった、ジェルマンの魂を陥落し、その進退を掌握したからと言って、その支配権に酔うどころか、ジェルマンを掌で転がしながらも、同時にジェルマンを慈しんでいる。 国語教師ジェルマンと男子高生クロードの二人は、単なる被支配者と支配者という関係性を超え、二人で一つなのである。それは共依存とも違う、互いを補完しあう関係だ。無論、二人の関係は、単なる愛情とも異なる。はたから見れば不可思議ではあるが、当人たちにとっては、互いが互いにとって、必然にして不可欠な存在なのである。

人生の転落が人間にもたらすものが、必ずしも悲劇とは限らないのだ。

【クロードを演じたエルンスト・ウンハウアーの魅力】

国語教師ジェルマンを魅了する男子高生クロードを演じたエルンスト・ウンハウアーが素晴らしい。艶やかな美しさと穢れのない無垢な魂という、いわば相反する魅力を同時刻に表現しているのだ。クロードは狙いを定めた“対象物”を、蛇のようなしなやかさと妖しさで確実に仕留めるのだが、エルンストの放つオーラによって、観客はそこに嫌悪感や卑猥さを一切感じない。妖艶さの中にも、常に清水のような清らかさと、高潔さを湛えているのだ。クロードはある種、妖婦のような存在だが、そこに、むごたらしさはない。彼の内包する“闇”は、ヘドロに満ちた、おぞましい暗黒ではなく、新月の夜の澄んだ深黒だ。インタビューでのエルンストの屈託のない笑顔(【インタビュー】オゾンが見初めた新星イケメン…妖しく微笑む“魔性の少年”)を見ていると、役柄との余りの相違に驚愕すると同時に、今後の活躍が楽しみでならない。