確か、新聞の書評か何かで『カンパニュラの銀翼』を知ったのがきっかけだったと記憶しているが、実際に本を手にしてみて、中里氏の独特の筆力にガッチリやられてしまった。
まずマイッたのが、句読点の妙味。高潔かつ知的でありながらも、隙間隙間から、甘美な喘ぎ声が漏れ聞こえてくる、そんな息遣いなのである。知性と本能は言うなれば「水と油」、相容れない要素なのだが、それらを見事、独特のリズム感と息遣いで調和させてしまう辺り、中里氏の筆才にたまげた。
そして、選び抜かれた粒ぞろいの言葉たち。丹念に磨きこまれ、一分の狂いもなく、然るべき場所に然るべくして配置された言葉の一つ一つが、誇り高くも気高い知性と、目の眩むような艶麗な色気を放っている。
中里氏が描く世界は、隅から隅まで緻密に構築され、「美しさ」と「いかがわしさ」が、しっくりと共存共栄しているのである。
そして特筆すべきなのが、ことの本質を見抜く、圧倒的な審理力。世のことわりや倫理観に潜む偽善と欺瞞を、一刀両断に切り裂き真相を露わにする、鋭利にして深遠な思想にも満ちているのだ。
12月13日現在、紙媒体で書籍化されているのは
『黒十字サナトリウム』、先述の
『カンパニュラの銀翼』、
『黒猫ギムナジウム』『コンチェルト・ダスト』(以上、刊行順)の4冊。