2014年6月7日土曜日

『スノーピアサー』鑑賞。




Chris Evans主演作。
原題;SNOWPIERCER
2013年8月1日 大韓民国公開。
2014年2月7日 日本公開。


観る者を八つ裂きにする、破壊力そして衝撃。




【あらすじ】
地球温暖化を防ぐべく世界中で散布された薬品CW-7により、氷河期が引き起こされてしまった2031年の地球。生き残ったわずかな人類は1台の列車に乗り込み、深い雪に覆われた極寒の大地を行くあてもなく移動していた。車両前方で一部の富裕層が環境変化以前と変わらぬ優雅な暮らしを送る一方、後方に押し込められて奴隷のような扱いを受ける人々の怒りは爆発寸前に。そんな中、カーティス(クリス・エヴァンス)という男が立ち上がり、仲間と共に富裕層から列車を奪おうと反乱を起こす。
(CINEMA TODAYより)


今そこにある危機を、容赦なく描く

種族保存という大義のため、比喩的な意味においても、また、文字通りの意味においても、人間が人間を喰らうことが公然とまかり通る近未来を、辛辣に描いた本作。観ていた最中も、そして観終えた今も、動揺と放心が止まらない。

未曾有の氷河期に陥った近未来。前代未聞の危機を前にした人類は、手に手をとって助け合うのではなく、厳格な階級制度を敷き、被支配者階級に対し、定期的な淘汰(意図的に引き起こされた反乱による、大量虐殺)を起こすことで、作為的に人口調整を図り、限られた空間、限られた食糧の中で、人類という種族を保存しようと図る。
支配者ウィルフォード(エド・ハリス)は、これを秩序と平安のための人類搾取であり、大義なのだと語る。

もはや生き残る場所は列車の中のみという極限状況において、なんとも恐ろしいことに、支配者の説く大義を、私は、たちまち曲論とは断言できなかったのである。その事実は、劇中の残虐非道な殺戮シーンよりも遥かに深く鋭く、私の心に鉤爪を立てた。

しかしながら、もし、生き残る場所が、列車の外にも生まれ始めているとしたら?地球が息を吹き返し、地上は生命を育む場所として再生し始めているとしたら?…支配者の説く大義は、たちまちのうちに音を立てて崩れ去る。
事実、ある登場人物が映画終盤で地上へ足を踏み出すのだが、その人物は凍死するどころか、地上で息をし、そればかりか、遥か彼方に生命の存在を目撃するのである。

眼前の幸福に甘んじて、為政者の説く支配論理の真偽を確かめようともせず、ただ自己満足を満たすために生きる。その積み重ねが引き起こす、人類そして地球の破滅。この映画が、観客に鳴らす警鐘は、非常に重い。

ひとりの人間が、真のリーダーへと変化する過程

階級社会の最下層に組み込まれた被支配者たちの一縷の希望として、反乱軍のリーダーに推されるカーティスが興味深い。

的確な判断力と強い統率力で、誰から見てもリーダーに相応しいのだが、その一方で彼は、誰にも言えぬ、後ろ暗い過去を背負っているのである。
カーティスはかつて、支配者が引き起こした人為的淘汰の渦に飲み込まれ、生き残るために同胞を殺めた。その罪を償おうと思うカーティスだが、どうしても自己犠牲に踏み出すことができない。結果、カーティスは、劣悪な環境下にも関わらず、ほぼ無傷で生きながらえて来た。無数の命と引き換えに。

つまり、カーティスの内にあるのは強い自己嫌悪なのである。そんな彼が、リーダーの地位を拒みながらも人々を牽引していくのは、生き残るために殺めた無垢なる命への懺悔と、そして、自らをこのような状況に追い込んだ支配者への怨念からだ。彼を突き動かしているのは、執念であり、正義感ではないのである。だからこそ、支配者ウィルフォードから“秩序と平安のための人類搾取”を説かれたカーティスは、瞬く間に崩折れてしまうのである。

ここで注目したいのが、カーティスの傍には、熱烈なる崇拝者エドガーと強靭な守護者ギリアム、そして強力な案内人ヨナが居たことである。

崇拝者はカーティスの社会的評価の象徴であり、守護者は彼をリーダーたらしめる存在である。
先ずは崇拝者、次に守護者を失い、そして支配者ウィルフォードと対峙したカーティス。言わば、身ぐるみ剥がされた状態で突き出されたも同然。脆く、傷つきやすい精神状態にあるカーティスは、支配者の説く大義を前にして、茫然自失となり、支配者の操り人形になりかけてしまう。
しかし、そこに案内人が割って入る。透視能力を持つ案内人は、支配者の説く大義の綻びを見抜く。案内人の言葉によって、我に返ったカーティスは、文字通り、我が身を犠牲にして、大義の犠牲となっていた命を救い出すのだ。

激しい自己嫌悪に心身を縛り付けられていた、無傷のカーティスは、身体の一部を失うことによって自己嫌悪から解放され、真のリーダーとなった。その後の彼がとった或る行動が、懺悔でも怨念でもなく、正義感によるものであったことは、言うまでもない。

人類を導く者に必要な素質

そしてカーティスを含め戦場に散った人類の遺志を継ぐのが、透視能力を持つ案内人である。全てを破壊し尽くすほどの、強力な爆弾をもって、既存の支配システムは無に帰した。無から有を創り出し、人々を導くためには「透視」、言いかえれば先見の明を持つ人間の存在が不可欠である。次々と同志が凶弾に倒れる中、案内人が生き残ったこと。これは必然であろう。

***

繰り返しになるが、この映画が描く近未来が、決して絵空事でないことを、我々は強く肝に銘じなければならない。快楽に溺れ享楽を貪り続けるばかりか、壊滅的状況に陥ってもなお、その快感を永続的なものとするために自然淘汰に抗い、さらに私利私欲は肥大化させ、結果、滅亡へと歩みを加速させる劇中の人類は、現実世界の延長線上にあるからだ。

もし、我々人類が、リーダーの真偽を見極めることを放棄し、社会をあるべき方向へと軌道修正する努力を怠れば、そう遠くない将来、地上は『スノーピアサー』以上の、陰惨たる世界に覆われるやもしれない。

Twitterメモ

・ネバーエンディング無精ヒゲでも隠しきれないクリス・エヴァンスの美肌。大画面で毛穴チェックしたけど、モノの見事に引き締まっていた。

・劣悪な環境下にも関わらずクリス・エヴァンスのクチビルが、しっとりプルプルで、もう目が離せなかった。一瞬、ストーリーが吹っ飛んだ。それくらい潤っていた。プロテインバー(原材料100パー昆虫)食べたら、あの唇になれると言うのなら、昆虫羊羹を食べることもやぶさかではない。