2014年7月16日水曜日

『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』鑑賞。




David Garrett主演作。
原題;THE DEVIL'S VIOLINIST
2013年10月31日 ドイツ公開。
2014年7月11日 日本公開。


とにかく食わず嫌いせんと、映画館で観て下さい!是非とも!!






【あらすじ】
1830年のイタリア、並外れた才能を持ちながらも不遇の日々を送るバイオリニスト、パガニーニ(デイヴィッド・ギャレット)の前に突如現れたウルバーニ(ジャレッド・ハリス)は、彼を著名なバイオリニストにしてみせると約束。ウルバーニはさまざまな手段を用いて名門劇場での公演を成功に導き、パガニーニは一躍富と名声を手に入れる。成功後も放蕩(ほうとう)生活を送る彼のもとに、ロンドンデビューの話が舞い込む。
(CINEMA TODAYより)


デイヴィッド・ギャレットの演技

本業がヴァイオリニストなだけに、ところどころで、台詞と声音と肉体が三位一体にならない箇所があった。だが、演技なのか天性なのか、無垢な赤子のようで、それでいて世界を陥落させる堕天使にも見える存在感を放っていて、パガニーニを“肉の器”をもって現代に甦らせられるのは、やはりギャレットをおいて他にいないと納得させてしまうのだから、すごい。
どこか不安定で、常に何かに依存せずにはいられないパガニーニの内面を表現しているのか、熱に浮かされたかのように瞳を濡らし、無邪気に口元をゆるませつつ、無防備な色気を纏うギャレットの演技が、とにかく独特であった。


映画そのものの感想

パガニーニの人生を2時間に圧縮するために、数々のハプニングの連なりや流れよりも、ハプニングそのものの描写を重視したのか。抜歯だらけの口の中のように、ストーリーがスカスカしており、物足りなさを覚えたのが残念。


だがしかし!そんな事など放ってしまおう!!

この映画が何より凄まじいのは、圧巻の演奏シーンにあるのだから。演技やストーリーの拙さなど、もはやどうでも良い。
まぐわうように、耳全体を抱きしめてくる、ふくよかな音色。鼓膜をなでまわす、艶やかな残響。身体が火照り出す、官能美に満ちた指先、体躯、そして表情。万札はたいても惜しくない、この恍惚の演奏を、なんと千円札1枚で拝めてしまうのだ。高画質、高音質で。こんな勿体ない体験、他にあろうか!

***

初めて彼の演奏を生で聴いた時、それまで、どこか「優等生イメージ」のあったヴァイオリンに対する意識が、根底からガラガラと崩れたのを、昨日のことのように覚えている。甘く囁き、激しく愛を乞い、狂おしいほどに叫び、命をしぼるように泣く。ヴァイオリンとは、こんなにも人間らしく、いや人間以上に生々しく感情を吐露する“生き物”だったのかと震えが止まらなかった。それからというもの、ギャレットのヴァイオリンは、私にとって特別な存在である。

幼いころから、パガニーニと同様、神懸かりなヴァイオリニストであったギャレット。若い頃は、完璧かつ正確無比な演奏で、世を唸らせていた。



勿論、当時の演奏も素晴らしいが、歳月と経験を積み重ね、「熱い快感に弓なりに反らせた体躯を、光彩を放つ濡れたベルベットで覆ったような音色」で、人間を、性を、命を、宇宙を、変幻自在に歌うギャレットは、益々凄い。

本作では、その類まれな感性と技巧に、天才パガニーニの魂を憑依させているのだから、演奏中、とにかく私の琴線は震えっぱなしで、気付けば目から涙が溢れ出してきた。感動というより畏怖に近い涙だ。

映画の出来不出来はともかく、パガニーニと一体になったギャレットの演奏を聴けるだけで、映画館で観る価値は大アリであった。

***

「クラシックはちょっと…」「予告編のデイヴィット・ギャレットの顔が濃すぎてちょっと…」と食わず嫌いしている貴方。映画館に観に行くことを、強くオススメします!